2025年6月16日

Q:一つ目のブロック注射の重要さとはどのようなものだったのでしょうか??
これは膝の痛みのある高齢者の患者さんのお話です(個人情報に配慮して詳細はボカします)。膝の痛みが強く、いつも手押し車で歩かれていて、膝の変形も強い患者さんです。私の外来に膝の痛みで来院されましたが、これまで近所のクリニックに通院されてましたが薬での症状緩和にも限界を感じていたようで、人工関節置換術(膝関節を金属に変える手術)を希望されました。ところが内臓がかなり悪く、手術を行うことのリスクが高いと内科医師に判断をされ、ご家族・ご本人と相談の結果、手術は行わないことになりました。
その時に患者さんから、これまで注射も含めて様々な治療を受けてきて手術が最後の頼みだったと、手術ができないにしても膝の痛みをなんとかして欲しいと相談を受けました。
Q:そこで登場するのがブロック注射なのですね??
そうです。ただ、正確にはブロック注射とは異なるのですが、専門的な話になってしまうのでここではブロック注射とひとくくりにしてしまいます。最近の整形外科での話題なのですが、エコーを用いた注射で様々な痛みや症状に対応できる手技なのです。その注射を私も時々は用いていて効果を実感していたので、その患者さんにもブロック注射を行うことにしました。
いくつか注射をするポイントと手技があって、適切な場所に、適切な手技で、適切な量の注射をする必要があります。この患者さんでも良いポイントに注射をしたところ劇的な効果を認めました。注射前は手押し車で腰を曲げてヨタヨタと歩いていたのですが、注射直後には、杖などを何も使用せずに腰をまっすぐにして(ゆっくりとですが)歩くことができたのです。それを見た時に私も、そばにいた看護師さんも驚きました。
Q:ものすごい効果ですね。患者さんもびっくりされたでしょう??
そうなんですが、素直によろこんでもいられません。この注射の効果は手技や薬剤によるのですが、長ければ数週間の効果を示しますが、短いと数時間しかもちません。炎症を軽減したり、硬くなった筋肉周辺の組織を動きやすくするという効果はありますが、この患者さんの膝の軟骨や変形を根本的に解決するわけではありません。つまり、人工関節置換術が必要なほど膝が悪い患者さんへの効果は一時的なものでしかないのです。実際、この患者さんへの効果も3−4日でした。根本的な解決にならない治療法に私自身は抵抗感があったため、これまで大々的にはブロック注射は施行してこなかったのです。この患者さんにもなんとかして欲しいと頼まれてしぶしぶ注射したという感じでした。
Q:それでも患者さんは喜ばれたのではないですか??
そこなんです。私は根本的な治療にこだわっていたのですが、患者さんは3−4日効くだけの注射であってもとても喜ばれてました。ずっと痛みが続いていた時に比べると、たとえ短期間であっても痛みから解放されて歩けることが嬉しいとのことでした。その間にできることがいろいろあると。
この患者さんに手術ができなければ痛み止めの内服などで経過をみるのですが、それもこれまでの経緯からは効果が期待できませんでした。この患者さんに関してはブロック注射という治療法を選択して良かったのだと今は思っています。
これが患者さんに教わったこと、ということですね??
現在、東濃厚生病院では、同じような患者さんのために木曜の午後に専門外来を設けています。もともとは平日午前の通常の外来でブロック注射を行っていたのですが、エコーと注射をする患者さんが増えすぎて、他の患者さんの時間を圧迫するようになったため別の外来を設ける必要ができました。そこで、もともと行っていた【膝の痛みと静脈瘤】の外来と合併させたのです。開業しても瑞浪市周辺の患者さんのために、この外来はできるだけ継続していこうと考えています。
ただ、開業して良かった点があります。東濃厚生病院では入院患者のためのリハビリテーションがあるため、外来患者向けのリハビリテーションは常に混雑しており、週に1回の予約がやっとでした。開業することで自分のクリニックで細やかにリハビリテーションができて、これまで以上に注射の効果がでてくるのではと期待しています。
ブロック注射のお話ありがとうございました。